THE STEP

2018年

築約150年の古民家改修プロジェクト

THE STEP

– IDA Design Award 2017 Bronze Prize –

3年間空き家となっていた築約150年の古民家を、現代に再生するため、コワーキングスペースへとコンバージョンする計画です。建物は徳島県美馬市脇町の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている「うだつのまち並み」に面することから、外観には手を加えずインテリアのみの改装を行うこととなりました。リサーチ時には商家の面影が残り、土間から一段あがった「見世の間」が特徴的でした。地盤は通りを起点に奥へ進むに従い上がり、床のレベルもそれに追従するように幾重にも段差を刻んでいました。

室内に現れるさまざまなレベル差を生かすことを考え、そこでデザインコンセプトを「 STEP 」と設定し、多様な行為の誘発を試みることにしました。利用者の居場所は、まちに開かれたセミパブリックな領域から、ミーティングコーナー、シェアデスク、最上段の個別オフィスに至るまでステップを上がるごとにプライベートな領域へと移行していきます。それぞれの場所は回遊動線でつながれ、複数の空間を同時多発的に使用できるようにしました。従前、活用されず物置き場となっていた廊下はコモンスペースに変更するため、キッチンを中心とするボリュームを挿入しました。キッチンカウンターが設置されることで、薄暗かった場所は人の集う“明かりだまり”へと変身を遂げました。

素材や色彩はこの建物の持つ文脈を元に展開しています。カラースキムは、表通りに面しては往年の古民家としての雰囲気を尊重し濃色を展開。奥に行くに従って明るく近代的な配色となるよう計画しました。

キッチンカウンターには地元徳島県産の杉板を張り、土間のアプローチには吉野川の川石を敷くなど随所に地域の物語を埋め込んでいます。そのほかにもケヤキ框を再利用したり、既存の漆喰壁を極力残すなど長い年月を経てきた建物に対する敬意を表現しています。地域を代表する歴史的な通りに面していることもあり、改装中から近隣住民からの関心が高く、工事中の土間で談笑する様子も見られました。

工事の最終段階では有志によるDIYワークショップを開催し、塗装工事や棚の取付けを行いました。これから先、時とともに近隣住民、入居企業、行政担当者、移住者等多様な背景を持つ人々の思いがつながり、この場所を拠点にまちとの一体感が醸成されていくことを願っています。

 

  • 所在地 徳島県美馬市
  • 事業主 G&Cコンサルティング株式会社
  • 主要機能 オフィス / カフェ / 多目的スペース
  • 施工 有限会社内藤工務店
  • 撮影 片岡照博
  • 業務内容 インテリアデザイン
  • 担当デザイナー 片岡照博
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